服の「一生」を知る:生産から廃棄まで、エシカルな選択のヒント
私たちは毎日、様々な服を身につけています。クローゼットにある服が、どのようにして手元に届き、そして最後はどうなるのか、深く考えたことはあるでしょうか。エシカルファッションは、単に特定のブランドの服を買うことだけではなく、この「服のライフサイクル」、つまり服が生産されてから、私たちの手に渡り、そして最終的に手放されるまでの全ての段階に関わる考え方です。
この「服のライフサイクル」を知ることは、なぜエシカルな選択が必要なのかを理解する上で非常に重要です。服の旅路をたどることで、ファッション業界が抱える環境問題や社会問題が見えてきます。ここでは、服の生産から廃棄までの主な段階と、それぞれの段階で私たちがどのようなエシカルな選択ができるのかを解説します。
服の生産段階で起きていること
私たちが着る服の旅は、まず素材の生産から始まります。天然繊維であれば農場で、化学繊維であれば工場で、様々な資源やエネルギーを使って作られます。
素材の生産と環境負荷・労働問題
- 天然繊維(綿など): 大量の水や農薬、化学肥料が使用されることがあり、土壌汚染や水質汚染を引き起こす可能性があります。また、生産地では労働者の健康被害や、適正な賃金・労働環境が確保されていないといった問題も指摘されています。
- 化学繊維(ポリエステルなど): 石油を原料とすることが多く、製造過程で大量のエネルギーを消費し、有害な化学物質が排出される場合があります。マイクロプラスチック問題の原因の一つでもあります。
生地製造・染色・縫製工場での課題
素材が繊維になり、糸が紡がれ、生地が織られ、そして染色されます。これらの工程でも、大量の水が使用され、化学物質が排水として環境に排出されることがあります。特に染色は大量の水質汚染の原因となり得ます。
その後、生地は世界中の縫製工場に運ばれ、デザイン通りに裁断・縫製されて服になります。この縫製工場では、低賃金、長時間労働、危険な作業環境など、労働者の人権に関わる深刻な問題が長年指摘されてきました。私たちが安価な服を購入できる背景には、このような過酷な労働環境が存在する可能性があるのです。
生産段階でできるエシカルな選択肢
- 素材を意識する: オーガニックコットン、リサイクル素材(再生ポリエステルなど)、再生可能な植物由来の素材(リヨセルなど)といった、環境負荷が少なく、倫理的に生産された素材を使用した服を選びます。
- 生産背景が明確なブランドを選ぶ: どこで、どのような人によって服が作られているのか、情報公開を積極的に行っているブランドを応援します。フェアトレード認証や特定の労働基準を守っていることを示す認証マークも参考になります。
服の輸送・流通段階
生産された服は、多くの場合、世界中を輸送されて私たちの手元に届きます。この輸送には、船、飛行機、トラックなどが使用され、CO2排出による環境負荷が発生します。また、過剰な生産は在庫を積み上げ、最終的にセールや廃棄につながる可能性があります。
流通段階でできるエシカルな選択肢
- 地元のブランドを応援する: 地元で生産・販売されている服を選ぶことで、輸送にかかるエネルギーを削減できます。
- 必要以上に購入しない: 過剰な生産・流通を促さないために、衝動買いを減らし、本当に必要な服を選ぶように心がけます。
服の消費・使用段階
私たちは服を購入し、着用し、お手入れをします。この段階での私たちの行動は、服の「一生」の長さや、環境への影響に大きく関わります。
大量消費と使い捨ての問題
ファストファッションに代表されるように、安価でトレンドを取り入れた服が次々と販売され、短いサイクルで消費される傾向があります。これにより、服は「流行遅れになったら捨てるもの」といった認識を生み、大量廃棄につながっています。
消費・使用段階でできるエシカルな選択肢
- 「本当に必要か?」を考える: 服を買う前に一度立ち止まり、手持ちの服とのコーディネートや、どれだけ長く着られるかを考えます。
- 長く着られる服を選ぶ: トレンドに左右されすぎないデザインや、質の良い素材・縫製で、長く愛用できる服を選びます。
- 手持ちの服を大切にする: 適切なお手入れ(洗濯方法、保管方法など)を行うことで、服の寿命を延ばすことができます。シミやほつれを直すことも有効です。
- 新しい服の購入だけが選択肢ではないと知る: 古着、服のレンタル・シェアサービス、友人との交換なども活用します。
服の廃棄段階で起きていること
役目を終えた服や、もう着なくなった服は、最終的に手放されます。この廃棄の段階も、環境や社会に大きな影響を与えます。
大量廃棄の現実
日本では年間で大量の服が廃棄されていると言われています。これらの服の多くは焼却されたり、埋め立てられたりします。焼却は温室効果ガスを排出し、埋め立ては土地を圧迫し、化学物質が土壌や地下水を汚染する可能性があります。一部はリサイクルやリユースされますが、その割合はまだ十分とは言えません。また、多くの古着が海外に輸出されますが、品質の低いものは現地で引き取り手がなく、結局廃棄されるという問題も起きています。
廃棄段階でできるエシカルな選択肢
- できるだけ長く着る: 廃棄を減らす最も効果的な方法は、服の寿命を最大限に延ばすことです。
- リユースやリサイクルを検討する: 着なくなった服は、捨てる前に売る(フリマアプリ、古着屋)、寄付する、自治体の回収に出す、ブランドの回収プログラムを利用するなど、リユースやリサイクルの方法を検討します。
- 素材ごとの適切な手放し方を知る: 服の素材によってはリサイクルが難しいものもありますが、可能な限り環境負荷の少ない方法を選びます。
- リメイクやアップサイクルに挑戦する: 服として着られなくなった場合でも、素材としてバッグや小物に作り替えたり(リメイク)、新しい価値を持つものに生まれ変わらせたり(アップサイクル)することで、廃棄を避けることができます。
まとめ:服の「一生」を知ることが、エシカルな選択の第一歩
私たちが何気なく着ている服は、その生産から廃棄に至るまで、地球環境や人々の労働環境と密接に関わっています。この「服のライフサイクル」を知ることは、エシカルファッションを始める上で非常に重要な視点を与えてくれます。
エシカルな選択は、何も特別なことではありません。今日から、目の前の服がどのような過程を経てきたのか、そしてこれからどうなるのか、少しだけ意識を向けてみることです。新しい服を買うときに素材やブランドを調べてみる、手持ちの服を大切にお手入れする、着なくなった服を捨てる以外の方法を考えてみる。これらの小さな一歩が、服の「一生」を変え、より良い未来につながるのです。
完璧を目指す必要はありません。まずは、あなたが無理なく始められることから取り組んでみてください。服の「一生」を知る旅は、エシカルファッションという新しい世界への扉を開いてくれるはずです。